アトピー性皮膚炎

〇難治性のアトピー性皮膚炎でお困りの方へ
近年、保険診療で投与可能な新規薬剤が続々と開発され、保湿剤やステロイド外用等の標準治療では症状が軽快しなかった患者様も、大幅な改善が見込める時代になりました。一方で、これらの薬剤は、費用が総じて高額である為、長期に使用するのが難しく、なかなかその恩恵に預かれない方も多いという現状があります。2021年から、12歳以上に投与可能で、全ての治療が小児の定額医療費の範囲内で可能な薬剤が複数登場しました。また、小児医療費の適応とならない、高校生以上の方でも、長期投与が前提ではない為、症状が重い時のみ、短期間(1、2週間~1か月程度)使用し、症状が改善したら、標準治療に戻して、薬剤費を抑える(同時に、感染症のリスクも抑える)といった治療も可能となっております。また、以下、最新の治療法について、ご紹介いたします。
(1)新しい飲み薬(JAK阻害薬:リンヴォック、オルミエント、サイバインコ)
2021年に入ってから、相次いで、アトピー性皮膚炎の新たな内服薬(JAK阻害薬)が承認され、使用できるようになりました。中等度、重症のアトピー性皮膚炎の方で、他の標準治療が奏功しない場合、最終手段としては、デュピクセントしか選択肢がありませんでしたが、効果は非常に高いものの、注射薬である事、値段が高額な事、長期投与が前提となる事などから、使用を躊躇われる患者様も少なくありませんでした。JAK阻害薬も、値段は高額であるものの、下記の点が、デュピクセントとは異なります。
①内服薬である為、注射薬よりはハードルが低い。
リンヴォック、サイバインコは、12歳以上(体重30kg以上)から投与可能である為、難治性の小児の患者様は、定額の医療費で治療可能(※リンヴォックは、2020年4月より、国内でも関節リウマチの患者様に使用されております)。
③早い方では、内服2日後より痒みが改善するという報告有り。
④症状に合わせて、医師と相談の上、増量・中止・再開が可能。短期投与も可能
一方で、免疫に作用する薬剤である為、投与前に、B・C型肝炎、結核等の感染症のスクリーニング検査が必要となります。診察の上、JAK阻害薬を開始する事に決まった場合、おおまかに下記のような流れで治療が開始されます。

❶採血の予約を取る(検査項目の関係で、平日のみの受付となり、土曜日・祝日及びその前日の採血は不可です。内服前、内服後1か月、3か月、6か月で採血が必要ですが、短期投与の場合は、頻回の採血は必須ではありません。小児(12歳以上。12歳未満の小児には投与できません)は、小児医療費の範囲内で採血可能。結果は1週間前後で出ます)。

❷併せて、結核のスクリーニング検査の為、胸部レントゲンの撮影が必要となります。当院で連携をお願いしている、近医内科クリニック様への紹介状をお渡ししますので、お電話で内科クリニック様の予約を取って頂き、後日、胸部レントゲンを撮影して頂きます。

❸採血結果、レントゲン結果を確認し、問題が無ければ、初回投与開始となります。

服用中は、主に下記症状に注意が必要です。

①  発熱、咳、寒気、だるさ等→感染症の疑い

②  チクチク、ピリピリした痛み、痛みを伴う赤い湿疹や水ぶくれ→帯状疱疹の疑い

③  にきびの増悪

上記症状が見られた場合は、症状が軽快するまで、薬剤の投与を一時中止する場合がございます。

高校生以上の方の負担額は、下記のデュピクセントよりも高額となりますが、高額医療費制度や医療費助成制度が適用される方もおり、企業によっては付加給付制度や学生などへの医療費助成制度・こどもへの医療費助成制度など適用される方もいます

(2)新しい注射薬(デュピクセント皮下注シリンジ、ペンヒト型抗ヒトIL-4/13受容体モノクローナル抗体)
2018年4月に、アトピー性皮膚炎に対する初の生物学的製剤である、デュピクセント皮下注300mgシリンジが発売されました。高価な薬剤ですが(2021年7月時点で、ペン製剤300㎎一筒で66562円、患者様の負担額は、負担割合に応じて、この1~3割となります)、大きな副作用もなく(その為、投与前検査が必須ではありません)、既存の治療で効果不十分な中等症~重症の患者様にも、かなりの効果が期待できる薬剤となっています。特に、痒みが早い段階で改善すると言われております。通常は、初日に600mgを1回皮下投与し、その後は300mgを2週に1回注射していきます。当院でも、既に10名以上の患者様に投与経験がありますが、他の治療法では効果のなかった方にも著明が改善効果が見られております(特に、痒みに対し、強力な効果を発揮している印象です)。薬剤費が高額なのがネックではありますが、上記のJAK阻害薬と同様、医療費の助成制度もありますので、中等症~重症のアトピー性皮膚炎患者の方で、これまでの治療で効果が不十分であった方は、一度ご相談いただければと思います。
〇以下、アトピー性皮膚炎の病態、症状、標準治療等についてご説明いたします。
アトピー性皮膚炎は、痒みのある湿疹がほぼ左右対称に出現し、良くなったり悪くなったりを繰り返す病気です。患者さんの多くは「アトピー素因」と言い、家族や患者さん本人に他のアレルギー性の疾患(喘息、アレルギー性鼻炎、アレルギー性結膜炎、アトピー性皮膚炎)を持つことが多くみられます。また、患者さん本人の血液中にIgE抗体が産生されやすい素因も見られます。
Q.原因は?
A. アトピー性皮膚炎の患者さんの皮膚は、外敵から内部を守る皮膚のバリア機能に問題があり、様々な刺激に対して皮膚が敏感になっており、炎症を起こしやすい状態になっています。最近では、皮膚のバリア機能に関係する「フィラグリン遺伝子」の変異が、アトピー性皮膚炎の発症に関係している事がわかってきています。フィラグリンは分解されると天然保湿因子になるため、アトピー性皮膚炎の患者の肌が乾燥しやすくなる原因となると考えられています。
Q.どんな皮膚症状が出ますか?
A.乳児期、幼児期は、皮膚が脆弱で、乳児湿疹や乳児脂漏性皮膚炎等さまざまな皮膚のトラブルが見られるため、容易にアトピー性皮膚炎と診断するのは避けたほうが無難です。独特の乾いた皮膚であるatopic dry skinや、おむつの当たる箇所はかえって湿疹が少ないなどの特徴があります。口のまわり、頬、頭にジクジクした湿疹を生じることが多く、卵、牛乳、大豆などに対するアレルギーもときに関係していますが、食事制限のみではよくなりません。
 幼児期から学童期は肘や膝など関節の内側を中心に湿疹がみられ、耳介の下部が裂けるような症状(耳切れ)を呈します。
 また、小児の場合、食物アレルギーが関与している場合があります。肘や膝の内側などに、様々な外的刺激が加わって湿疹ができます。乾燥症状もはっきりしてきます。
 思春期以後、成人の場合は食物アレルギーが関与していることはほとんどありません。
児童期の湿潤型の皮疹と異なり、思春期以降は乾燥型の皮膚炎を起こすことが多く、広範囲にわたり乾いた慢性湿疹の症状を呈します。思春期以降の特徴として、頭皮に大量のフケが出るケースが多く、眉毛の外側が薄くなる「ヘルトゲ徴候」、発赤した皮膚をなぞると、しばらくしてなぞったあとが白くなる「白色皮膚描記症」、慢性化すると、鳥肌だったようにザラザラしたものができ、皮膚が次第に厚くなる「苔癬化」、しこりのあるイボ状の皮疹である「結節性痒疹」、手指に症状が表れ易くなり、爪元から第二関節あたりが特に酷く荒れやすい「アトピックハンド」、等特徴のある所見がみられます。
Q.検査は?
A. 血液検査で、血液中の好酸球値、IgETARC値を調べることがあります。IgE値はアトピー性皮膚炎の患者さんのほとんどで高くなっており、診断の参考になります。また、ダニ、ホコリ、花粉、カビ、食べ物などのアレルギー検査を行うことにより、症状の悪化院因子を明らかにします(39項目のアレルゲンを、1度の採血で調べられる、View39という採血検査が保険適応となっています。3割負担の方で、自己負担は5000円程度(+別途診察代)。お子様は、小児の医療費負担の範囲で、検査を受ける事ができます)。TARC値や好酸球値を定期的に計測することで、症状が良くなっているかを客観的に知ることが可能です。
Q.治療は?
A. アトピー性皮膚炎の治療は、①抗炎症外用薬を中心とした薬物療法②皮膚バリア機能に対するスキンケア③悪化因子の検索と対策、の3点が基本になります。適切な治療で多くの場合が小児期に治癒する事も多く、成人の場合も適切な治療により症状がコントロールされた状態に維持されると自然完解も期待される疾患であるため、いかに皮膚症状を良い状態で維持するかが重要です。ステロイド外用薬、タクロリムス外用薬などを用いて、炎症を急速に改善させることが治療の第一歩となります。1日2回の外用が基本になりますが、1日1回でもそれなりの効果は期待できるため、仕事で忙しく朝は塗る時間がない方などには、せめて1日1回お風呂上りに外用して頂くとよいと思います。また、外用薬を処方されても、どのくらいの量を塗るかが伝わらず、十分な量が外用されていないため症状が良くならない方も多く見られます。 体については、1日あたり5gチューブを2本、顔については、1日あたり1g、5gチューブを1日2回塗って1週間で使い切る、などが目安となります。
薬を塗っている間は調子が良いけど、塗るのを止めたら調子が悪くなってきたので、薬が欲しいと言って、受診される方が多くいらっしゃいます。従来は、このように症状が悪化したら薬を塗って、治まったら保湿剤のみに切り替え、また、悪化したらステロイド、タクロリムス軟膏、コレクチム軟膏等の薬を塗る、という治療が当然とされて来ましたが(リアクティブ療法)、近年では、アトピー患者の皮膚は、湿疹が出ていないところでもバリア異常、表皮肥厚、持続的な炎症が見られることがわかってきており、良くなっても油断は禁物です。一見、良くなっているように見える皮膚でも、炎症の元が治まっていない為、保湿剤のみでは炎症が抑えられず、また、皮膚が荒れてしまう悪循環となります。この為、現在では、症状が良くなってからは、保湿剤の外用は引き続き継続し、ステロイドやタクロリムス、コレクチム軟膏等の抗炎症外用薬を週に数回程度外用することを継続し、良い状態を維持する治療(プロアクティブ療法)が推奨されています。抗炎症外用薬の外用頻度については、皮膚の状態を見ながら、まずは隔日外用、落ち着いていれば、週2回、週1回と、外用頻度を減らしていければ、皮膚の良い状態を保ちつつ、結果的に抗炎症外用薬の外用量を減らすことができます。
Q.日常生活の注意点は?
A.・毎日お風呂に入りましょう。
 ・皮膚を強くこすったり、引っかいたりしないようにしましょう。
 ・石鹸、シャンプーは洗浄力の弱いものを選びましょう。
・入浴後はたっぷりと保湿しましょう。乾燥がひどければ日中も保湿しましょう。
・室内の温度と湿度を快適に保ちましょう。
・爪は短く切りましょう。
・汗をかいたら早めにシャワーを浴びましょう。